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HO1:黒羽(クロハ)「~だな」が口癖。

私の片足は松葉杖に、私の心はアカに支えられて生きてきた。 私は、支えてもらうことでしか生きられない。

 あなたは片足が悪く、時々検査の為に長期間東京の病院に入院していた。その日も検査のために入院し大部屋(複数のベッドと患者がいる部屋)で寝ており、ふと目が覚めると仕切りのカーテンがたまたま開けられていた。誰かが閉め忘れたのだろうか。あなたは立ち上がりカーテンを閉めようとしたが、隣のベッドに居た、悲しげに外を眺める302号室の少女に見惚れてしまった。あなたは勇気を振り絞り彼女に話しかけた。彼女の名前は『夏空 茜(なつぞら あかね)』と言うらしい。茜は先程見た姿とうって変わってとても楽しそうに話に応じてくれた。あなたはそのギャップに惹かれたのだろうか。彼女とよく話すようになり、入院生活はとても楽しかった。

 あなたは元々精神的に不安定だったが、アカと話しているときはリラックスできた。退院後も彼女と一緒に居たいと考えたあなたは茜にVRを勧めた。VRであればすぐに会うことができる。彼女は親に頼みVR機器を買ってもらったらしく、VRを始めだした。普段はVRの世界で話し、たまに彼女のお見舞いに行くことが続いた。

 ずっと入院していて買い物に行けない茜は、あなたに色々なものを買ってくるように頼むことが多かった。カメラや、大人用の帽子など何に使うのかよくわからないものまであったが、茜の可愛らしいワガママをあなたは断れなかった。そんな日常が続き、あなたと茜はいわゆる親友という間柄になるまでに時間はかからなかった。

 ある時、茜にVR開発チーム『リュミエール』と言う団体に参加しないかと誘われた。彼女はいつの間にかVRの世界にのめり込んでおり、『アカ』と言う名前で色々活動していたらしい。自分の知らないところで友達をたくさん作っていたようだ。あなたは茜の生き生きとした姿をもっと間近で見たいと考え、クロハとしてリュミエールに所属し、アカと一緒に活動することにした。あなたはVR世界の活動にあまり熱中しなかったが、彼女は自由に動ける環境がよほど楽しかったらしく、生きがいを見つけたと君に教えてくれた。

 しかし、そんな幸せな時間は2年で終わる。ある日彼女から電話があった。

「……もう長く生きられないらしい」

 

​ 病気はそんなに進行していたのだろうか。沈黙が続いたあと、彼女はぽつぽつと話し出した。彼女には最後の願いがあるらしい。それは、思いが詰まったVRの世界であなたと最期を迎えたいと言うことだった。……あの日は、二人でベッドに横たわりながら、太陽が沈まない世界で、ずっと夕日を眺めていた。

過去のタイムライン

17:30

 茜から電話があった。……急すぎて何も言えない。体は元気なはずなのに胸が締め付けられる。病院へ急ぐ。

18:00頃

 松葉杖をつきながら302号室に入る。あなたが初めて彼女を見た時と同じように、彼女は夕焼け空を見上げていた。彼女は衰弱して痩せてはいるがとても可愛かった。茜と最後に話をして別れを告げた後、茜のしている点滴に気を付けながら茜と共にSVRを被ってベッドに寝ころび、電源ボタンを押してVR世界に入った。

18:20頃

 茜が個人チャットにワールドURL送ってきた。そのワールドURLの先に飛ぶと、夕日に照らされた孤島のワールドにたどり着いた。このワールドはリュミエールの立ち上げ当初ロビーとして使っていた場所だ。2年前の思い出が蘇る。……浜辺に移動し夕日を見ながら、これまでのこと、これからのことを話し合った。

波の音が少しうるさく感じたが、風情を感じさせられる。粗い作りの夕日は、ずっと私達を照らし続けた。

19:00頃

 彼女の口数がどんどん減っていき、19:00頃には彼女は何も喋らなくなった。……だがあなたは話し続けた。だって現実に戻るのが怖かったから。そのまま、5分くらい一人で話していたが、溢れた涙が止まらないことに気がついた。涙を拭くためヘッドギアを外す。夕日が沈み、電灯に照らされた病室はとても静かだった。安らかな寝顔をしている茜のヘッドギアの電源を切り、暗い夜道を歩いて帰宅した。……あぁ、せつないものだな。

 

ヒント?:茜が『アカ』だと皆は知らない。彼女のことは皆の前では「アカ」と呼ぼう。

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